櫻井 帰ってきて8月はじめ、お盆の時、母と一緒にお墓参りにいきました。電車に乗って母が横に座って、「アメリカに行って何してきたの」 と聞くので、「こういうことをやって切って針を刺したら応力がどうのこうの」 という話をしたのです。母は何と言ったか。「なんというしょうもない研究をしてきたのか」 と言われたのです。次に追い打ちをかけて 「世界中で毎日、トマトを切っているお母さんが知っていることを難しい言葉で研究するのは税金の無駄だ」。税金の無駄というのは大阪出身の母親の最低評価の言葉です。すごく有名な雑誌に載ったんだぞと言いたかった言葉を、グッと飲み込んで、そうかもしれない。切ってわかることをああだ、こうだというのは面白くない。よし、そしたらトマトに針を刺さずに計ってやろうと電車の中で思ったのです。
それから2年間、スピーカーとマイクロフォンを使って音波の進み方とか速度とかいろいろやったのです。でもどうしても納得のできる研究成果が得られない。2年たって、もうやめようと思いました。これ以上やっていてしょうがない。なぜかというと私の本業じゃない。偶然、頼まれてやったことです。スピーカーにトマトを当てて、これが熟れているか、熟れていないか。そんなことは誰もしないでしょう。だから世の中の役に立たないからこの発表でやめようと。1994年、京都で国際園芸学会が開かれました。日本で国際学会が開かれるのは近年、珍しくなくなりましたが、いい機会でいろんな人が来てくれるので、そこで発表をしたり、皆さんの発表を聴いたりすることは勉強になります。ここで発表して、この研究は終わりにしようと決心して行ったのです。発表は檀上に立って皆さんにお話する口頭発表と、ポスターをつくってその前に立ってお客さんが来たら興味のある人は聴いて、興味のない人はそのまま行くという発表があります。私はポスター発表でポスターの前に立っていたのです。