松岡 そこで、ハバタキの背を低くする遺伝子についても、Gn1 と同じ方法で調べてみました (図26)。その結果、ハバタキの背の低いのは、1番の染色体真ん中下辺りにある遺伝子が作用した結果ということが分かりました。この1番の染色体真ん中下辺りには、イネの背丈を調節する有名な遺伝子が存在しています。それはSD1 という遺伝子です。イネの背丈を低くするSD1 という遺伝子は、非常に有名な遺伝子で、20世紀後半にアジアを中心に展開された緑の革命と呼ばれた育種事業の中心として用いられた、IR8という品種の背丈を低くした遺伝子です (図27)。私たちは、以前この遺伝子を研究したことがあったので、1番染色体の真ん中下という場所からすぐにこの遺伝子ではないかと考えたわけです。
そこで、直接ハバタキのSD1遺伝子を取って、そのDNA配列を調べてみました (図28)。その結果、予想通りハバタキのSD1 遺伝子はそのDNAのなかに 383bp の欠損があることが分かりました。このSD1 遺伝子はジベレリンという植物の生長を促進するホルモンの合成に関与します。ハバタキのSD1 はその機能が壊れているため、生長ホルモンであるジベレリンがうまく作れなくなります。その結果、背が高くならずに低く抑えられます。この生長が押さえられることが、逆に収量の増加にはプラスに働くわけです。
そこで、Gn1 同様に、SD1 についても、ハバタキの染色体のSD1 の部分だけをコシヒカリに入れ込んだ 「ここだけハバタキ」 を作りました (図29)。この赤い部分がハバタキの染色体です。このイネの背丈はこのように80%程度に低くなります。一方、Gn1 を入れ込んだ 「ここだけハバタキ」 の背丈はもとのコシヒカリと変わりません。そして、Gn1 とSD1 の2ヵ所がハバタキになった 「ここだけハバタキ」 は期待したとおり、背が低くなっています。