松岡 そこで、このGn1 遺伝子を取り出し、その働きを詳しく調べることにより、タネの数がどのように決められるのか、を研究することにしました。さて、コシヒカリとハバタキは、同じイネでもかなり違った性質を持っており、DNAレベルでは何万もの違いがあることが予想されます。ここで、今調べたいタネの数の違いは、ここで示した5遺伝子の違いが原因となっていることがわかりました (図14)。つまり、ハバタキの染色体にはGn1 からGn5 までのコシヒカリには無いタネの数を増やす遺伝子があることになります。そして、これから調べる遺伝子はこのGn1 に決めました。そこでGn1 だけに焦点を絞るためには、残りの4ヵ所の部分をコシヒカリとハバタキの間で違わなくしてしまえば、Gn1 の違いだけに注目することができます。コシヒカリの染色体を青で、ハバタキの染色体を赤で示した時、Gn1 の部分だけがハバタキ、つまり赤色の染色体でそれ以外の部分はコシヒカリ、つまり青色の染色体を持つイネを作り、この 「ここだけハバタキイネ」 とコシヒカリのタネの数を比べれば、Gn1 遺伝子に注目することができると考えました。それでは、どうしたらGn1 の付近だけハバタキ、赤色の染色体で、それ以外の部分がコシヒカリというイネを作ることができるのでしょうか。
その作り方を説明します (図15)。コシヒカリとハバタキを交配します。できた子供は、両親から染色体を同じようにもらいますから、50%がコシヒカリ、50%がハバタキの遺伝子を持ちます。この子供に、またコシヒカリを交配します。そうするとできた孫は同じように、双方の親から半分ずつ染色体をもらいますから、結果として、75%がコシヒカリ25%がハバタキの染色体を持ちます。この孫にまたまたコシヒカリを交配します。そうすると、ひ孫は87.5%がコシヒカリ、12.5%がハバタキのDNAを持つことになります。これを繰り返せば、できる子供はどんどんコシヒカリに近付いていきます。でもここで重要なことは、Gn1 の部分だけハバタキを残して、後の部分をコシヒカリに変えてやる必要があります。それには、できてくる子供の染色体について、染色体上の場所が分かっている目印を使って、その場所がコシヒカリ由来のDNAか、ハバタキ由来のDNAかを調べていきます。この図で言えば、染色体が赤色か青色かを調べる目印を使って、染色体の上から下まで、1番から12番まで、ずーっと調べていって、Gn1 の付近だけハバタキの染色体、つまり赤色を持つものを探し出します。このようなことは非常に大変な作業ですが、イネの全DNA情報が見られるようになったために、時間と手間をかければ可能となったわけです。
それで、このような方法で、「ここだけハバタキ・ほとんどコシヒカリ」 という新しいイネを作りました (図16)。このイネとコシヒカリのタネの数を比べると、コシヒカリは一穂当たり150粒程度、これに対して、ここだけハバタキは平均240粒と確かにタネの数が増えていることがわかりました。これは、Gn1 遺伝子だけで 240−150 の90粒の増加をさせることができることを意味します。