9.働いている遺伝子を調べる

長谷部 今、どんな刺激が必要か。切ること、光が必要なことがわかってきました。そこで何が起きているかを調べていこうと。何が起きている。遺伝子がどう働いているか。生物が何かを起こす時には多くの場合は遺伝子が働くわけです。遺伝子はどこにあるか。葉っぱの切り口の細胞です。そこに核がある。ここにDNA、遺伝子が入っている。遺伝子だけあっても、設計図だけあっても働けない。DNAからRNAが出てくる。RNAが働くんですが、タンパク質をつくる。このタンパク質が細胞の中で働くわけです。一体、この遺伝子は何なのか。遺伝子はDNAといって化学物質です。AとCとGとTという4つの化学物質から成り立っています。AGCTT何とかと書いてあるわけです。このコケは5億の遺伝子が並んでできています。5億の遺伝子の中で何が変わっているかを調べよう。調べるためにはまず遺伝子を全部調べないといけません。ヒトゲノムプロジェクトというのは数年前に終わって、ヒトのゲノムはわかりました。すごいお金がかかっています。ヒトはゲノムがわかりましたが、コケは大変ですよね。一回、妻に相談したことがありまして 「コケの研究をしていて、この遺伝子全部読みたいんだけどな」。妻が 「いくらかかるの?」 「1兆円くらいかなあ」 「バカか」 と言われました。5年くらい前ですが、技術はどんどん進みまして、仲間も増えまして、大きな仕事は仲間をつくることが大事なんです。世界中でコケを研究する人が増えてきて、アメリカ人、イギリス人、日本人、ドイツ人と皆で集まって、何とかコケの遺伝子を全部読もうと相談したんです。技術が進んで、まあ1兆円はかからないという話になって、じゃ、読んじゃおうと。読めちゃったんですね。今年、コケのゲノムが全部わかった。

遺伝子を全部読みました。500億並んでいるACGTの中に約3万6千の遺伝子があることがわかっています。再生の過程で3万6千のうちのどれが働いているかを知りたいわけです。その時にマイクロアレーを使います。ガラスの板なんです。これにすべての遺伝子を張りつける。ガラスの板に穴があいているイメージを持っていただいてA~Fまで遺伝子がある。3万ある。ガラスの上に3万個の穴があると思ってください。Aという遺伝子はここ、Bの遺伝子はここ、Cの遺伝子はここと場所が決まっている。DNAはRNAになってどんどん増える。タンパク質になる。再生していないのと、再生しているものの両方からRNAをとってくる。遺伝子が働くとRNAをつくるわけです。そうするとこっちとこっちでつくっているRNAが違うだろう。その違いを探そう。Aという遺伝子のRNAが5個あった。ところが再生しているものは1個になった。ということはAという遺伝子の働きは減ったわけですね。あるいはBは変わらない。Cは減った、Fは全然なかったのに働いた。というわけでマイクロアレーというガラス板を使って遺伝子からつくられるRNAの数を数えてやろう。それでこの2つの状態の違いを調べようというわけです。

結果はシンプルです (図12)。3万個くらいある。見方がややこしくて、縦にどのくらいRNAの粒々、遺伝子がいくつ働いているか。線が特定の遺伝子、葉っぱを切った後、切ってすぐの状態、6時間の状態、12時間の状態、この遺伝子は切る前はたくさんあるが、切るとグワッと量が減ってきてと。どこにいっているかわかりませんが、大体同じになる。この遺伝子は切った時は全然ないんだけど、切るとワーッと量が増えてくる。この3万個の遺伝子がいろいろ変わっているんですが、これからわかったことは、ここはあまり変わらない。ここでゴニョゴニョといっぱい動いている。少ないものが多くなったり、多いものが減ったりして。最初の6時間で何か大きなことが起こってそうだということがわかってきた。最初の、切ってすぐ、6時間くらいがポイントだと。24時間たたないとニョロニョロ出てこないんですけど、その頃ではもう遅い。すぐに何が起きているのか。じゃ、一体、ここで変わっているのは何なのかを調べようとなります。それを見るとクロマチン修飾酵素 (図13)、もちろん他の遺伝子も働いているんですが、これが一番働きをしてそうだ。これはどういうものか。核の中には染色体があります。染色体の中にタンパク質とDNAが一緒になって染色体をつくっていますが、DNA、ACGTが剥き出しになっているのではなく、それがタンパク質とくっついて固まりをつくっている。染色体を伸ばすと、こうなっています。DNA以外に粒々がある。この粒がこれです。タンパク質なんですね。普段、染色体でギュッとなっている時は下の状態、緑がDNAです。DNAの鎖があって、そこにタンパク質がくっついてグーッとDNAが紐を固めたような状態になっている。そうすると紐は設計図、ACGTは設計図を書いている。タコ糸みたいにグルグル巻いてあったら読めないですね。だから遺伝子が働く、情報を読む時にはタコ糸をほぐさないといけない。この状態です。その働きをしているのがクロマチン修飾酵素です。染色体はタコ糸をグルグル巻いた状態。それを緩めて読めるようにする。そういうものがどうも働いているようだ。

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