森田 残りの遺伝子は一体どこで働いているか。内皮なのか、それ以外の場所なのか (図6)。これらの遺伝子には、植物の体全体で遺伝子がタンパク質をつくっているものもあります。重力屈性にとって植物全身にそのタンパク質をつくる必要があるのかもしれない。あるいは、どこか特定の組織でそのタンパク質をつくっていれば十分なのかもしれない。それを内皮について考えてみることにしました。実は最初に説明したSGR1 という遺伝子は内皮でだけ発現するような遺伝子です。その遺伝子の上流にある制御領域に、緑色に光る蛍光タンパク質GFPをつなげて、植物の中に入れてやります。これはその植物の茎の輪切りの図です。緑色がGFPのシグナルです。つまり、内皮でだけある特定の遺伝子をタンパク質にして発現させてやることができる。こういうテクニックが使えます。GFPでなくても何でもいい。何か他の遺伝子を内皮でだけ発現させることができるのです。こういう方法を使えば、先ほどの疑問が解けるのではないかと考えました。sgr4 変異体は、90分でも茎が曲がらない変異体ですが、ここに先ほどのSGR1 の制御領域にSGR4 の正常な野生型の遺伝子を入れてやります。そうすると、この植物では、内皮細胞以外の組織は変異体のままなのでSGR4 の遺伝子は発現していないのですが、内皮でだけはSGR4のタンパク質ができていることになります。この内皮でだけSGR4のタンパク質ができている植物はちゃんと重力屈性できています。つまり、ここから言えることは、SGR4 遺伝子は内皮でさえ発現していれば重力屈性は十分できるということになります。
同じことを、いくつかの遺伝子でやっていくと、どの遺伝子も内皮で機能する、内皮で発現していれば重力屈性には十分だということがわかってきました。そうしたら次は、これらの遺伝子の中で、今度は内皮細胞の中でどういうプロセス、前記 (1) か (2) か、に関係するかを調べる訳です。いろいろ調べてみるとSGR2 、SGR3 、SGR4 遺伝子 (図4) は、(1) 重力の感受に関わりそうだと知ることができました。それを次にご説明したいと思います。
先程の実験から、これらの遺伝子が機能するのは、内皮の細胞の中だということが言えましたので、しっかり内皮の細胞を観察してやればいいだろうと考えました。そこで内皮細胞の微細構造を電子顕微鏡で見てみました。これが1つの細胞です (図7)。白く抜けて見えるところは液胞と呼ばれており、中に水やイオン、有機酸などを溜めている袋のようなものです。Aで示した粒々はアミロプラストですが、だいたい下に沈んでいます。そしてアミロプラストは液胞に入り込んでいるように見える。この部分を拡大してみると、アミロプラストの周りを細胞質と液胞膜が取り囲んでいる像が見えてきます。ところが赤文字で示した変異体ですと大分様子が違います。何が違うかというと、白く抜けた液胞はありますが、重力の方向つまり細胞の下の方にアミロプラストが沈んでいません。模式図で表すとこのように (図7)、sgr2 、sgr3 、sgr4 変異体は、すべて同じような内皮細胞の構造になっていました。まとめると、野生型の内皮細胞では、大きな液胞という風船のようなものに外側からアミロプラストがめり込んだような状態になっている訳ですが、このような状態でありながらアミロプラストは重力の方向に沈んでいます。一方で、これらの変異体では、アミロプラストが液胞の中にのめり込んでいるという像が観察されず、アミロプラストも沈んでいないのです。変異体の原因遺伝子がわがつくるタンパク質の働きを調べてやると、液胞の形成や機能に関係するタンパク質をつくるらしいということがわかってきました。ということは、この細胞の中で、アミロプラストとその周囲を取り囲む液胞との関係というのは、重力の感受にかなり大事らしいということがわかってきたわけです。